diary

太陽みたいなひと

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その日、私は皮膚科に行った。

少し前からおそらく疲れから来る湿疹ができていて、子どもが夜まだまとめて寝ないので疲れるのは仕方ないのだけど、どうにもかゆいので薬を出してもらおうと考えたのだ。

   

 

皮膚科はそこそこ混んでいた。

名前を呼ばれて中に入ると、おばあちゃん先生が出迎えてくれて、話を聞くなりものすごいスピードで話を始めた。

 

 

あなた、肩の力を抜きなさい。あなたも大変でしょうけどね、赤ちゃんという生き物はこの世に生まれてまだ数ヶ月でここがどこやら、何が何やらわからないなか、がんばっているのよ。そりゃあ泣くのも当然よ。眠いなら勝手に寝てくれるといいじゃないと思うけどね、本人もよくわからないのよ。粉ミルクだっていいじゃない、私は70年前に粉ミルクで育ったけど見てごらんなさい、今でもピンピンしてるわよ(70年前というと、配給の粉ミルクだろうか)。離乳食だってレトルトに頼っても構わないの。需要があるからあんなにあるのよ。便利でありがたいものよ。それからご家族にご飯を作ってもらいなさい、ご飯といってもね、お米とみそ汁。これができればいいの。これが基本。あとはお惣菜でも買ってくれば立派な食卓よ。お米を炊くのが難しいなら無洗米、図るのが大変なら1合ごとの袋が売ってますから。あとはあなた、人に頼らないとだめよ、あなたが倒れたらどうするのよ、それからね…

 

 

あまりにも早いので2/3くらいしか聞き取れていないと思うけど、要約するとだいたいこんな感じ。

私は待合室が気になってしょうがなかったけども、彼女は20分ほどその調子で懸命に語りかけ続けてくれた。置いていかれないよう必死で相槌を打った。

 

 

最後に、心が楽になる6つの言葉を教えますからね、今メモに書きますから。

そう言って書かれたメモには、「ありがとう」「ごめんなさい」「お願い」と、書かれていた。

2枚目のメモの言葉は何かと思って待っていたけれど、どうやら私の聞き間違いで、その3つだけだったようだ。

これらの言葉に、彼女がこの地域で女医さんとしてこれまで働き続けてきた汗や涙が滲んでいるような気がした。

 

 

最後におまけのように薬を処方されてその日はおしまい。思い出し笑いをしながら帰る足取りは軽かった。

かゆみは1カ月以上続いていたのに、診察から2日もすると薬は必要なくなって、彼女が名医だったことを思い知った。

奇しくも患部は、肩なのだった。

 

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